天然痘治療のための経口テコビリマット
Oral Tecovirimat for the Treatment of Smallpox
D.W. Grosenbach and Others
天然痘は 1980 年に撲滅が宣言されたが,天然痘を引き起こす天然痘ウイルス(VARV)は依然として存在している.天然痘に対する既知の有効な治療はないため,テコビリマット(tecovirimat)が天然痘の経口治療薬として開発されている.疾患が自然に発症する状況での臨床試験は行えないため,有効性と安全性を評価するための別の開発方法が必要であった.
米国食品医薬品局(FDA)の動物における有効性検討規則を遵守して,非ヒト霊長類(サル痘)およびウサギ(ウサギ痘)モデルにおけるテコビリマットの有効性を検討した.規則は専門家諮問委員会が天然痘治療薬向けに解釈した.また,成人ボランティア 449 例において,プラセボを対照に,薬物動態と安全性に関する試験を行った.
サル痘モデルで 90%を超える生存を達成するために必要なテコビリマットの最低用量は,10 mg/kg 体重を 14 日間であり,ウサギ痘モデルでは 40 mg/kg を 14 日間が同程度に有効であった.体重 1 kg あたりの有効用量はウサギのほうが多かったが,曝露量は少なく,平均定常状態最高濃度(Cmax),最低濃度(Cmin),平均濃度(Cavg)はそれぞれ,ウサギでは 374,25,138 ng/mL,非ヒト霊長類では 1,444,169,598 ng/mL であり,24 時間の濃度時間曲線下面積(AUC0-24hr)は,ウサギでは 3,318 ng×時間/mL,非ヒト霊長類では 14,352 ng×時間/mL であった.これらの知見により,非ヒト霊長類が,ヒトで必要な薬物曝露量を推定するためのより保守的なモデルであることが示唆された.ヒトを対象とした試験には用量 600 mg の 1 日 2 回 14 日間投与が選択され,非ヒト霊長類の曝露量を上回る曝露量が達成された(平均定常状態 Cmax,Cmin,Cavg はそれぞれ,2,209,690,1,270 ng/mL,AUC0-24hr は 30,632 ng×時間/mL).問題となる有害事象の傾向は観察されなかった.
2 種類の動物モデルにおける有効性と,ヒトにおける薬物動態と安全性に関するデータに基づき,天然痘に対する治療薬として,テコビリマットの開発が FDA の動物規則を遵守して進められている.(米国国立衛生研究所,生物医学先端研究開発局から研究助成を受けた.ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT02474589)