ミトコンドリア DNA 疾患の予防におけるミトコンドリア提供と着床前遺伝子検査
Mitochondrial Donation and Preimplantation Genetic Testing for mtDNA Disease
L.A. Hyslop and Others
ミトコンドリア DNA(mtDNA)に病的バリアントを有する女性から出生した児は,「mtDNA 疾患」と総称されるさまざまな臨床症状のリスクがある.前核移植によるミトコンドリア提供では,非罹患女性から提供された除核受精卵に,罹患女性の受精卵の核ゲノムを移植する.したがって,前核移植は,罹患女性と遺伝的に関連するものの,mtDNA 疾患のリスクは低い児をもつ可能性を提供する.
mtDNA に病的バリアントを有し,これらのバリアントの児への遺伝防止を望む一連の女性に対して,(前核移植による)ミトコンドリア提供,または着床前遺伝子検査(PGT)を受けることを提案した.ヘテロプラスミー(バリアントが mtDNA のコピーの一部に存在する)の患者には PGT を提案し,ホモプラスミー(バリアントが mtDNA のすべてのコピーに存在する)の患者またはヘテロプラスミーレベルが高い患者には前核移植を提案した.
前核移植群として卵細胞質内精子注入法を受けた 22 例中 8 例(36%)と,PGT 群として卵細胞質内精子注入法を受けた 39 例中 16 例(41%)で,臨床的な妊娠が確認された.前核移植群では 8 例が生児出生にいたり,1 例が妊娠中である.PGT 群では 18 例が生児出生にいたった.前核移植を受けた母親から出生した新生児 8 例の血中ヘテロプラスミーレベルは,検出不能から 16%の範囲であった.母親由来の病的 mtDNA バリアントレベルは,対応する除核接合体と比較して,新生児 6 例で 95~100%低く,2 例で 77~88%低かった.母親が PGT を受けた新生児 18 例では,10 例でヘテロプラスミーレベルは判明しており,検出不能から 7%の範囲であった.
前核移植によるミトコンドリア提供は,ヒト胚の生存能力と両立可能であることが明らかになった.前核移植と PGT を含む統合プログラムは,ホモプラスミーやヘテロプラスミーの病的 mtDNA バリアントの遺伝を防止するのに有効であった.(NHS イングランドほかから研究助成を受けた.)