重症の複合型免疫不全症の治療としての造血幹細胞移植後の胸腺機能
Thymic Function after Hematopoietic Stem-Cell Transplantation for the Treatment of Severe Combined Immunodeficiency
D.D. PATEL AND OTHERS
重症の複合型免疫不全症の乳幼児では,移植前の化学療法や移植片対宿主病(GVHD)に対する予防措置を必要としない,HLA 一致ドナーから提供された未分画骨髄の移植,あるいは HLA の 1 座が不一致のハプロタイプ一致ドナーから提供された T 細胞を除去した骨髄幹細胞の移植によって,免疫機能を回復させることができる.しかしながら,この免疫機能の回復過程における胸腺の役割はわかっていない.
18 年の期間に,血縁ドナー由来の T 細胞を除去していない同種骨髄移植を受けた重症の複合型免疫不全症の患者 83 例について,末梢血 T 細胞の表現型と末梢血の単核細胞のフィトヘマグルチニン(PHA)に対する増殖反応を分析した.さらに,胸腺依存性の T 細胞再形成を評価するために,T 細胞抗原受容体のエピソーム(胸腺内で T 細胞が成熟するときに形成される染色体外 DNA 環)が存在するかどうかの検査も行った.
移植前および移植後早期には,末梢血 T 細胞は少なく,成熟 CD45RO + T 細胞が優勢を占めていた(これは,主に,母親の細胞の経胎盤移動によるものである); この時点では,T 細胞抗原受容体のエピソームも,末梢血の単核細胞には検出できなかった.移植後 3~6 週目までに,これらの乳幼児のうちの 73 例に,胸腺由来の T 細胞発現 CD45RA および T 細胞抗原受容体のエピソームが検出された.胸腺依存性 T 細胞抗原受容体のエピソーム数の平均(± SD)値は,正常者では誕生してから 80 歳位までに徐々に減少していくのに対して,移植後 1~2 年で最大になり(末梢血の単核細胞 DNA 1 μg 当り 7,311 ± 8,652 個),14 歳までに低値になった(DNA 1 μg 当りのエピソーム数は 100 個未満).
重症の複合型免疫不全症の乳幼児の痕跡胸腺は,骨髄移植後に,その機能を発揮するようになり,免疫機能が正常に働くのに充分な量の T 細胞を産生できるようになる.