The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE

日本国内版

年間購読お申込み

日本語アブストラクト

March 2, 2000 Vol. 342 No. 9

Share

Share on Facebook
Facebookで共有する
Share on Twitter
Twitterでつぶやく
Share on Note
noteに投稿する

RSS

RSS

急性心筋虚血・梗塞における血管新生因子の早期発現
Early Expression of Angiogenesis Factors in Acute Myocardial Ischemia and Infarction

S.H. LEE AND OTHERS

背景

心筋に血液が十分ゆきわたらないと,虚血,梗塞,心筋リモデリングの過程が開始される.低酸素誘導因子 1(HIF-1)は,血管内皮増殖因子(VEGF)の転写活性化因子の一つであり,低酸素に対する細胞の初期反応を開始させるのに非常に重要である.今回,われわれは,低酸素に対して早期に起こる心筋の分子反応を解明することを目的として,ヒトの心臓の組織検体における HIF-1 の α サブユニット(HIF-1α)および VEGF の時間的および空間的な発現パターンについて検討した.

方 法

冠動脈バイパス手術を受けた 37 例から,手術中に心室の生検検体を採取した.この検体を鏡検し,虚血組織,進行中の梗塞組織,あるいは正常組織の組織学的所見を入手した.さらに,HIF-1α と VEGF のメッセンジャー RNA(mRNA)の発現を逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法で分析し,HIF-1α 蛋白と VEGF 蛋白が存在している場所を免疫組織学的検査で調べた.

結 果

HIF-1α の mRNA は,急性虚血(手術前 48 時間以内の出現)あるいは初期梗塞(手術前 24 時間以内の出現)の病理学的所見の認められた心筋検体で認められた.一方,VEGF の転写物は,急性虚血または進行中の梗塞(手術前 24~120 時間に出現)の所見が認められた検体で確認された.心室の組織が正常であった患者あるいは陳旧性梗塞の所見しか認められなかった患者では,VEGF と HIF-1α のいずれの mRNA も検出限界以下のレベルであった.HIF-1α の免疫反応性は筋細胞と内皮細胞の核で検出されたが,これに対して,VEGF の免疫反応性は毛細血管と細動脈の内側を覆っている内皮細胞の細胞質で認められた.

結 論

HIF-1α のレベルの上昇は,心筋虚血・梗塞に対する初期反応の一つである.この反応は,血液喪失に対してヒト心筋で起こる,分子レベルでの初期の適応の一つであることを示している.HIF-1α は,急激に危険に曝された心筋の有用な時間的マーカーである.

英文アブストラクト ( N Engl J Med 2000; 342 : 626 - 33. )