左室機能障害の白人患者との比較における黒人患者のアンジオテンシン変換酵素阻害剤治療の低い反応
Lesser Response to ACE Inhibitor Therapy in Black as Compared with White Patients with Left Ventricular Dysfunction
D.V. EXNER, D.L. DRIES, M.J. DOMANSKI, AND J.N. COHN
心不全の黒人患者は白人患者よりも予後が不良であり,この違いについては充分な説明が得られていない.薬物治療に対する反応の人種差が,転帰の差に影響しているのかどうかということも明らかにされていない.この問題を検討するために,予防試験と治療試験から成る「左室機能障害試験(Studies of Left Ventricular Dysfunction:SOLVD)」,すなわち,左室機能障害の患者を対象にエナラプリルをプラセボと比較した,二つの大規模無作為試験のデータを併合して分析した.
この研究では,試験,治療割付け,性別,左室駆出率,および年齢によって,黒人患者 1 人に対して白人患者を 4 人までマッチさせるという方法のマッチドコホートデザインを採用した.800 例の黒人患者(予防試験の患者 404 例と治療試験の患者 396 例)に,合計で 1,196 例の白人患者(予防試験の患者 580 例と治療試験の患者 616 例)をマッチさせた.追跡調査の平均期間は,予防試験が 35 ヵ月間,治療試験が 33 ヵ月間であった.
黒人患者とこれらの患者にマッチした白人患者の人口統計学的,臨床的特性はよく似ていたが,黒人患者では,全死因死亡率(100 人-年当り 12.2 対 9.7)と,心不全による入院率が高かった(100 人-年当り 13.2 対 7.7).これら 2 群の薬剤の投与量は同程度であったにもかかわらず,心不全による入院のリスクが,白人群ではエナラプリルの治療によってプラセボよりも 44%(95%信頼区間,27~57%)低下していたのに対し(p<0.001),黒人群では有意な低下は認められなかった(p = 0.74).また,1 年目の時点において,白人群では,エナラプリルの治療によって,収縮期血圧(平均[±SD]で 5.0±17.1 mmHg の下降)と拡張期血圧(3.6±10.6 mmHg の下降)が試験開始時から有意に下降したのに対して,黒人群では有意な血圧の下降は認められなかった.しかし,死亡のリスクに関しては,どちらの群にも,エナラプリルの治療に関連した有意な変化は観察されなかった.
エナラプリルの治療は,左室機能障害の白人患者では,心不全による入院のリスクの有意な低下に結びつくが,同様の黒人患者では有意な低下は得られない.この結果は,黒人患者を対象とした心不全の治療法の有効性に関する追加研究の必要性を強調するものである.