鉛に曝露した小児における神経心理学的発達に対するサクシマーによるキレート化療法の効果
The Effect of Chelation Therapy with Succimer on Neuropsychological Development in Children Exposed to Lead
W.J. ROGAN AND OTHERS
何千人もの小児,とくに都市部の劣化した住宅に住んでいる貧しい子供たちは,多量の鉛に曝露して,認知障害を起している.血中の鉛濃度を低下させる治療によって,このような障害を防いだり,あるいは減少させたりすることができるのかどうかはわかっていない.
血中鉛濃度が 20~44 μg/dL(1.0~2.1 μmol/L)であった小児 780 例を,経口の鉛キレート剤であるサクシマー(succimer)による 1 コース 26 日間の治療を最大で 3 コース行う,プラセボを対照とした無作為二重盲検試験に組み入れた.これらの小児は都心部の劣化がすすんでいる住宅に住んでおり,試験組み入れ時の月齢は 12~33 月齢であった;その 77%が黒人で,5%がスペイン系であった.追跡調査には,36 ヵ月間にわたる認知,運動,行動,および神経心理学機能の検査を含めた.
試験開始後 6 ヵ月間において,サクシマーを投与した小児の平均血中鉛濃度は,プラセボを投与した小児の平均濃度よりも 4.5 μg/dL(0.2 μmol/L)低かった(95%信頼区間,3.7~5.3 μg/dL [0.2~0.3 μmol/L]).追跡調査の 36 ヵ月目の時点において,平均 IQ スコアは,サクシマーを投与した小児がプラセボを投与した小児よりも 1 ポイント低く,親による行動評価は,サクシマーを投与した小児でわずかにわるかった.しかし,学習に支障をきたすと考えられる神経心理学的欠陥を測定するために設計された一連の検査である「発達神経心理学評価(the Developmental Neuropsychological Assessment)」のスコアは,サクシマーを投与した小児でわずかに優れていた.これらの差はすべて小さなもので,統計学的に有意なものはなかった.
血中鉛濃度が 45 μg/dL 未満の小児に対するサクシマーの治療は,血中鉛濃度を低下させたが,認知,行動,あるいは神経心理学機能の検査のスコアには改善が得られなかった.サクシマーは,現在入手可能な鉛キレート剤のどの薬剤とも同程度の効果が認められていることから,血中の鉛濃度がこの範囲の小児にはキレート化療法は適応がない.