プラセボには効果がないのか? プラセボを無治療と比較した臨床試験の解析
Is the Placebo Powerless ? — An Analysis of Clinical Trials Comparing Placebo with No Treatment
A. HROBJARTSSON AND P.C. GOTZSCHE
数多くの疾患の患者がプラセボ治療によって軽快することが報告されているが,この知見の裏付けとなるような科学的根拠の質に対しては,厳密な評価が行われていない.
患者をプラセボまたは無治療のいずれかに無作為に割付けた臨床試験の,体系的検討を行った.プラセボは,薬理学的(たとえば錠剤など),理学的(用手的療法など),あるいは心理学的(会話など)なものであった.
組み入れ基準に合致した試験を 130 試験同定した.このうち転帰に関連したデータがなかった 16 試験を除外すると,二つの値で転帰を評価した試験が 32 試験(これらの試験には合計で 3,795 例の患者が含まれ,各試験の患者数の中央値は 51 例),連続した値で転帰を評価した試験が 82 試験(これらの試験には合計で 4,730 例の患者が含まれ,各試験の患者数の中央値は 27 例)であった.2 値変数の転帰の場合には,これらの転帰が自覚的あるいは他覚的なものかどうかには関係なく,プラセボには,無治療と比較して有意な効果は認められなかった.これに対して連続値の転帰の場合には,プラセボに有益な効果が認められたものの,その効果は標本数が大きくなるにつれて小さくなったことから,小規模試験の効果に関連したバイアスの可能性が示された.併合した全体の標準化平均差は,自覚的転帰の試験では有意であったが,他覚的転帰の試験では有意ではなかった.疼痛治療に関連した 27 試験では,プラセボによる,疼痛の強度の低下が 100 mm の視覚アナログスケールで 6.5 mm として示されるような有益な効果が得られていた.
プラセボに大きな臨床効果があるということの一般的根拠は,ほとんど見付けられなかった.他覚的あるいは 2 値変数の転帰に対しては,プラセボに有意な効果は認められなかったが,連続値の自覚的転帰を評価した試験および疼痛治療の試験では,プラセボにわずかな有益性があることが考えられた.臨床試験以外でプラセボの使用を正当化するような事由はない.