February 1, 2001 Vol. 344 No. 5
B 型肝炎ワクチン接種と多発性硬化症のリスク
Hepatitis B Vaccination and the Risk of Multiple Sclerosis
A. ASCHERIO AND OTHERS
B 型肝炎ワクチン接種後における多発性硬化症の発症が報告されたことによって,このワクチンの予防接種が健常な個体に多発性硬化症を引き起こす原因の一つであるのかもしれないという懸念が出てきた.
米国の看護婦からなる二つの大規模コホート集団において,コホート内症例対照研究を行った.二つのコホート集団は看護婦健康研究(the Nurses' Health Study)(1976 年から 121,700 例の女性を追跡)と,看護婦健康研究 II(the Nurses' Health Study II)(1989 年から,116,671 例の女性を追跡)であった.多発性硬化症が発症したおのおのの女性に対して,5 例の健常女性と 1 例の乳癌女性を対照として選び出した.B 型肝炎ワクチンの予防接種に関する情報は,郵送による質問票調査によって入手し,ワクチン予防接種の証明書によって確認した.解析は,多発性硬化症の女性 192 例とこれらの女性にマッチした対照女性 645 例(健常対照者 534 例と乳癌対照者 111 例)を対象として,条件付きロジスティック回帰を用いて行った.
多発性硬化症の発症前の任意の時点における B 型肝炎ワクチンへの曝露に関連した多発性硬化症の多変量解析による相対危険度は,0.9(95%信頼区間,0.5~1.6)であった.多発性硬化症の発症前の 2 年間における B 型肝炎ワクチンへの曝露に関連した相対危険度は,0.7(95%信頼区間,0.3~1.8)であった.遺伝子組換え型の B 型肝炎ワクチンが導入されたあとに多発性硬化症が発症した女性のみを対象とした解析でも,同様の結果が得られた.また,ワクチンの接種回数と多発性硬化症のリスクとのあいだにも何の関連も認められなかった.
これらの結果は,B 型肝炎ワクチンの予防接種と多発性硬化症の発症とには関連がないことを示している.