March 22, 2001 Vol. 344 No. 12
日本におけるインフルエンザワクチン学童接種の経験
The Japanese Experience with Vaccinating Schoolchildren against Influenza
T.A. REICHERT AND OTHERS
インフルエンザの流行は,死亡者の増加,とくに高齢者や高リスク群の死亡増加につながっており,先進諸国でのインフルエンザ対策は,このような集団におけるインフルエンザワクチン接種に注がれている.しかしながら,日本では過去に一度,学童へのワクチン接種に基づいたインフルエンザ対策が採用されたことがあった.このため,1962~87 年までの期間,多数の日本の学童がインフルエンザワクチン接種を受けていた.学童ワクチン接種は 10 年以上法制化されていたが,1987 年に緩和され,1994 年には廃止された;これ以降,インフルエンザワクチンの接種率は低レベルへと下降した.ほとんどの学童がインフルエンザワクチン接種を受けていた期間に,日本では,インフルエンザに対する集団免疫が成立していた可能性がある.もし集団免疫が成立していたならば,この期間には,高齢者においてもインフルエンザの発症とインフルエンザによる死亡が低下していたはずである.
1949~98 年末までの日本と米国における,すべての原因による月別の死亡率と,肺炎およびインフルエンザによる月別の死亡率を分析し,さらに,インフルエンザワクチンの接種率に関する国勢調査と統計量データについての分析も行った.11 月の平均死亡率を基準値として,この基準値を超えた月間当りの超過死亡者数を各冬期ごとに推定した.
日本と米国の両国において,肺炎およびインフルエンザによる超過死亡と,すべての原因による超過死亡には,高い相関性が認められた.米国では,これらの死亡率は時代を越えてほぼ一定であった.これに対して日本の超過死亡率は,学童に対するインフルエンザワクチン接種プログラムの開始に伴って,それまで米国の 3~4 倍であった死亡率が,米国と同程度にまで低下した.日本の小児への予防接種は,1 年間に約 37,000~49,000 人の死亡を防止,すなわち,予防接種を受けた小児 420 人に約 1 人の死亡を防止した結果となった.その後学童への予防接種が中止されたために,日本の超過死亡率は上昇した.
死亡からみたインフルエンザの影響は,米国よりも日本のほうが相当に大きく,すべての原因による死亡率でも,肺炎とインフルエンザによる死亡率でみても,同じように,大きなインフルエンザの影響を明らかにすることができる.学童へのインフルエンザワクチン接種は,高齢者をインフルエンザから守り,インフルエンザによる死亡を減少させる.